かりんとう
 



かりんとうにはかりんとうが入っているのよ。
母さんはそう言って一人で頷いた。
テレビでは笑点がやっていて、母さんはそれを見ながらかりんとうを齧った。
ぼくは笑点を見ている母さんを見ながら、かりんとうを齧った。
甘いのだ。
かりんとうも甘いし、笑点のオープニングだけで笑う母さんもものすごく甘いのだ。
かりんとうにはかりんとうが入ってる?そんな馬鹿な。
ぼくは机に置かれたかりんとうの袋を手にとって裏返した。
成分。小麦粉、卵、砂糖、黒糖蜜。
納得なのに。
ねぇ母さん。かりんとうにかりんとうは入ってないよ。
ぼくの声が届いているのかいないのか。
届いているのに届いていない振りをしているのか。
母さんはお気に入りの落語家に夢中のようだった。
ふとテレビに目をやると、その落語家は何かを齧る仕草をして
『“かりん、とう” まい “かりんとう”。』
「ほら!」
なにが。
母さんは大きく頷いて笑ってる。