石畳の広場の片隅で
青年はヴァイオリンを奏でていました

12月の街灯が放つ光に
やわらかな音符はゆっくりと溶け
静寂の響く広場はぬくもりを抱き始めます

青年のヴァイオリンが揺れるたび
本屋では書棚から言葉と絵があふれだし
扉の隙間を抜けて石畳の上に踊り出ました

陶器屋のショーウィンドウでは
揺れないスカートをひらめかせた花売りの人形が
軽やかなステップを踏んでいます

以前出会った少女に似た人形に
青年はにこりと微笑みかけて
彼女の好きだったクリスマス・キャロルを一曲

その音色が少女に届いて
陶磁器のハートは軽やかにカタリと音をたてました

春になったら彼女をウィンドウから連れ出そうと
約束をこめたキャロルが
今宵、少女へのクリスマスプレゼント

再びハートがカタリと鳴ります

やさしくふりそそぐヴァイオリンの音は
街灯とともに
石畳のパーティー会場を
青白い頬をほのかに染めて微笑む少女を
奏者である青年自身を
いつまでも包み込むのでありました









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荒井絵梨さんのヴァイオリンリサイタルのプログラム用に寄稿させていただいたおはなしです。
12月だったのでクリスマスちっくに。
ヨーロッパの広場ってなんであんなに魅力的なんでしょう。