詩的

千草湊のブログ

おはなし

おはなし23




かりんとう
 



かりんとうにはかりんとうが入っているのよ。
母さんはそう言って一人で頷いた。
テレビでは笑点がやっていて、母さんはそれを見ながらかりんとうを齧った。
ぼくは笑点を見ている母さんを見ながら、かりんとうを齧った。
甘いのだ。
かりんとうも甘いし、笑点のオープニングだけで笑う母さんもものすごく甘いのだ。
かりんとうにはかりんとうが入ってる?そんな馬鹿な。
ぼくは机に置かれたかりんとうの袋を手にとって裏返した。
成分。小麦粉、卵、砂糖、黒糖蜜。
納得なのに。
ねぇ母さん。かりんとうにかりんとうは入ってないよ。
ぼくの声が届いているのかいないのか。
届いているのに届いていない振りをしているのか。
母さんはお気に入りの落語家に夢中のようだった。
ふとテレビに目をやると、その落語家は何かを齧る仕草をして
『“かりん、とう” まい “かりんとう”。』
「ほら!」
なにが。
母さんは大きく頷いて笑ってる。





 

おはなし22





つつじが咲き乱れていたので昔を懐かしみながら蜜を吸っていたら、通りすがりの少年に何をしているのかと聞かれた。
説明をすると少年はなんだか少しあきれた表情になる。
「美味しい蜜は簡単に人に教えちゃだめなんだよおじさん、秘蜜ってそういうことでしょ。」 





おはなし20





見上げるとビルの高さに三日月がいた。
珍しく低いと見ていたら、とんがったところが屋上の柵にひっかかり、空に昇るのに四苦八苦しているようだった。
May I help you?





おはなし19




ぽつりぽつりと
窓に灯りがともりまして
わたしたちの町に
薄闇紳士がやってくるのでございます
チャコールグレイのスーツを着こなして
ステッキをくるりと回せば
移動遊園地の回転木馬が
回り始めるのでございます
赤・青・黄色のネオンに
己の影を忍ばせて



 

おはなし18



ヒトデ

 

ポストを開けると、乾燥ヒトデが入っていた。
手のひらサイズの青緑色したやつだ。
なんだかわからないが、郵便物とともに部屋に持ち帰る。
酒のつまみにひっくり返したりして眺めた。
水でもかけたら乾燥は元通りになるのだろうかと、手元にあった酒を少しだけたらしてみる。
ヒトデはシュワシュワと音を立て、少しだけ色が明るくなったような気がした。
面白くなってもう少しもう少しと酒を浴びせていると、その度に明るくなっていく。
明るくなると重力も軽くなるらしく、今ではテーブルから1cmくらい浮いている。
最後の一滴をたらすと、ヒトデはクルクルと回りだした。
そして空中を浮遊するようになり、家の中をフラフラと飛び回る。
アルコールのせいか、ガツンガツンとあちこちの壁にぶつかっていた。
窓の方へ近づいていったので開けてやる。
外へ出ると急に元気がよくなったように、回る勢いも早くなった。回れば回るほど光を発している。
そうしてその乾燥ヒトデだったものは、クルクルクルと光を撒き散らしながら空へと上っていった。
あれは星になりたかったのだろうか。



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